💡 本説を読む 謡曲に取り入れられた弁財天十五童子(十六童子)の一覧はこちら

 

冊子型のPDFファイルをダウンロードしていただけます。
プリントアウトの上、中央を山折りにし、端を綴じてご活用ください。

 

 

 

 

江島童子

シテ 龍の口明神
ツレ 弁才天女
ワキ 豆州桃園の者

所 相模江島

次第「祈る願ひの末とけて。〳〵。江の島まふで急がん。
ワキ詞「加様に候者は。豆州桃園の者にて候。我多年弁天を信じ奉り。同じ心の友をさそひ。只今江の島に参詣仕候。
道行「何事も心に叶ふ時を得て。〳〵。山また山の筥根路を。上り下れば程もなく。玉縄片瀬過行て。早江の島に着にけり。〳〵。
詞「急候程に。江の浦に付て候。暫く此所に休らひ。人来つて当島の謂を尋ふずるにて候。
一声、シテ「鵜来島守の身の業は。釣のいとなみ。隙ぞなき。
ワキ「いかに是成漁夫に尋べき事の候。
シテ「此方の事にて候歟。何事にて候ぞ。
ワキ「我等は豆州の者にて候が。年比弁天を信じ奉り。心友を伴ひ参詣にて候。此島の謂れ御物語候へ。
シテ「某も委くは知らず候へ共。承及たる子細を。物語申さふずるにて候。
語「扨も当島弁天部と申は。往昔欽明の御宇卯月半に。諸天下界の龍神迄も。悉く爰に出現まします。時に金輪際より。島涌出すれば。悪龍夜叉羅刹迄。磐石をそばだて一島を造り。一つの岩窟をたゝへて。弁天爰に居まし給ふ。其折節此海月江の浦に一つの悪龍有。其身ひとつにして。頭五つあり。則是を五頭龍王と名付。当国の人民を贄に取て。国中に人なし。弁天是をあはれみ給ひ。彼龍王にむかひ。汝永々殺生をとゞめば。我夫婦のかたらひをなすべしとあれば。龍王よろこび悪心をひるがへし。国民を衛護し。龍の口の明神と顕れ。衆生を守りおはします。なんばう新たなる御事にて候。
ワキ、カヽル「謂れを聞ば有難や。扨々天部の御事は。
詞「兼てより伝へ承る。迚も之事に十五童子の子細御物語候へ。
シテ「さのみは悉く知らねども。御尋候へ教へ申候はん。
ワキ「先印鑰童子は。
シテ「御鑰を持。
ワキ「官帯童子は。
シテ「帯を提げ。筆硯は筆すゞり。
ワキ「金財は。
シテ「秤に金を盛。
ワキ詞「扨又外の童子の名は。
シテ「稲籾は稲を携へ。計升は升を持せり。
同「飯櫃童子はあまねく。普く飯を国土に施し。衣裳童子は衣服を諸人に与へおはします。蚕養は。かいこをそだて。綿線を以て衆生の。肌をあたゝめ給はんの。御誓ひあらた成けり。〳〵。
ワキ詞「猶々聞ば奥床し。残りし童子の御名はいかに。
シテ「酒泉童子は国民に。
同「酒泉童子は国民に。甘露を授け愛敬は。本来衆人の愛敬を守り給ふなる。誓ひぞ貴かりける。
クセ「生命童子は寿命延年の徳あり。従者はけんぞく。牛馬童子は民の田畠のたすけとなり。船車はふねと車を衆生に与へ給ふなり。
シテ「扨また善財童子は。
同「乙護と是を名付つゝ。弁天よりも大覚へ。給仕に送りおはします。禅師の心に等しければ。其名を如意と召れつゝ。一生仕へ給ふと歟。さのみは何と語るべき。我は是龍の口の。明神と云捨て。波濤を分て入給ふ。〳〵。(中入)シカ〴〵
ワキ詞「斯る奇特に逢事も。一方ならぬ御利生ぞと。
歌「いふ浪風も音を添へて。〳〵。松諸共に調べあふ。声もみちくるあらたさよ。〳〵。
地「其時御殿鳴動して。日月光かゞやき渡り。山の端出づる如くにて。顕はれ給ふぞかたじけなき。
後シテ「抑是は。此島に住んで御代を守る。聡明勇進弁財天なり。我を信ぜん輩は。唵薩羅薩伐底曳娑婆訶と。朝暮唱ふる衆生には。福寿円満快楽と守るべし。
同「四方星辰及日月。威神擁護得延年。吉祥安穏福徳増。災変厄難皆除遣と。宣ふ御声の内よりも。花降霊香薫じつゝ。月にかゞやく。乙女の舞。返す〴〵も面白や。(舞)
同「夜遊も今は時過て。〳〵。月澄渡る。青海原に。龍灯忽かゞやき見えしは。五頭龍王の出現かや。
同「龍王則顕はれて。〳〵。天地に横たはる大蛇の勢ひ。白浪を平地にけたて〳〵て。さもすさまじき龍神の。気色悪魔を払ふ粧ひたり。(働アリ)
シテ「元来衆生済度の誓ひ。
同「元来衆生済度の誓ひ。様々なれば。天女龍神と形を顕はし。七難即滅七福即生。悪事災難を悉く払ひ。武運長久諸願成就と。宣ふ御声もあらたに聞え。天部は岩洞に入らせ給へば。五頭龍王は。波間にかけり島根をうがち。巨海にどよみ波上にはしり〳〵て。海底に飛でぞ。入にける。

底本:国立国会図書館デジタルコレクション『古今謡曲解題』丸岡桂 著『宴曲十七帖 謡曲末百番』国書刊行会 編

弁財天十五童子(十六童子)の一覧は次の通りです。
1~15の童子を十五童子、さらに16の善財童子を加えて十六童子と称します。

  1. 印鑰童子 いんやくどうじ
  2. 官帯童子 くわんたいどうじ
  3. 筆硯童子 ひつけんどうじ
  4. 金財童子 こんざいどうじ
  5. 稲籾童子 たうちうどうじ
  6. 計升童子 けいしようどうじ
  7. 飯櫃童子 はんきどうじ
  8. 衣裳童子 いしやうどうじ
  9. 蚕養童子 さんやうどうじ
  10. 酒泉童子 しゆせんどうじ
  11. 愛敬童子 あいきやうどうじ
  12. 生命童子 しやうみやうどうじ
  13. 従者童子 じゆうしやどうじ
  14. 牛馬童子 ぎうばどうじ
  15. 船車童子 せんしやどうじ
  16. 善財童子 ぜんざいどうじ

このコンテンツは国立国会図書館デジタルコレクションにおいて「インターネット公開(保護期間満了)」の記載のある書物により作成されています。
商用・非商用問わず、どなたでも自由にご利用いただけます。
当方へのご連絡も必要ありません。
コンテンツの取り扱いについては、国立国会図書館デジタルコレクションにおいて「インターネット公開(保護期間満了)」の記載のある書物の利用規約に準じます。
詳しくは、国立国会図書館のホームページをご覧ください。
国立国会図書館ウェブサイトからのコンテンツの転載