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園田

ワキ 社人
ツレ 園田
ツレ 神子
トモ 社人の従者
ワキヅレ 寄手
シテ 神体

地は 尾張
季は 雑

ワキ詞「抑是は津島の天王に仕へ申す社人にて候。今日は御神事にて候ふ程に。各罷り出で御神事を執り行はゞやと存じ候。
次第「岩間伝ひの谷川も。〳〵。瀬をせく水や増さるらん。
詞「是は尾州の傍に園田と申す者にて候。さても天王の神子に。月光女と申す神子の息女に。玉光女と申す神子。国中一の美人にて候。あはれ〳〵と存じ候へども。一度も常は神前に出ださず候。今日は御神事にて候ふ間。神前に出ださぬ事は候ふまじ。参詣申し何ともして奪ひ取らばやと存じ候。
地「足引の。山した滝つ岩波の。〳〵。心砕けて数々の。思ひの末は如何ならん。げにや人も又。踏み見ぬ山の岩がくれ。流るゝ水を我袖に。洩らさばそれぞ命の。限りなるべきとばかり。思ふ心のはかなさよ。〳〵。
ワキ「神垣は神の御室の榊なれば。神の御前に繁りあふ。貴賤群集ぞ有難き。
園田「我は又。さらぬやうにて立ち寄り見れば。げにも玉光女なり。心も空にかはり。それ〳〵宮人御神楽を。急ぎ給へと勧むれば。
地「其色々の役々の。拍子を揃へ歌ふなり。
ミコ「榊葉の。香をかぐはしみとめくれば。八十氏人ぞ円居せりける。(神楽)
ワカ「みてぐらは。我にはあらず天にます。豊岡姫の宮のみてぐら。豊岡姫のみてぐらなり。
地「さるほどに。〳〵。折節よしと。一同に走り寄り。とう〳〵神子を貴賤の中に。飛鳥の如く飛び翔つて。行方も知らずぞなりたりける。
ワキ「何と申すぞ。玉光女を奪ひ取りて行くと申すか。やるまじいぞ。
トモ「暫く候。今日は御神事なり。明日はさし寄せ腹切らせん。
ワキ「げに〳〵是も理りなり。神慮もさぞな神楽歌に。祝ひこし神は祭りつ明日よりは。組の緒をしめ遊び太刀はき。今日は還御急ぎつゝ。
地「明日はさし寄せ園田を。〳〵。討ち取り本望を達せんと。詮議をなして帰りけり。〳〵。
ヨセテ「明くる空。遅しと告ぐる庭鳥の。八声の閧をつくりけり。
ワキ詞「如何に園田たしかに聞け。天王よりの御使に。御榊持たせて参りたり。出でよや出でよと罵りけり。
園田「園田是にあり。何のための御使にて候ふぞ。
ワキ「何のためとは玉光姫。あまりに暗々と奪はれたる。無念散ぜん為めぞとよ。
園田「神慮に更に対し申さず去りながら。面々をたゞにてはいかで帰すべき。此の矢一筋うけて見よと。
地「十三束を打ちつがひ。〳〵。よつ引き放つ其矢の。不思議や行方も白真弓。あら面目なや候。さては早運槻弓。〳〵ぞと心得て。弓切り折つて遥に投げ捨て。大太刀おつ取り。追手より切つて出づれば。勇み勇む。社家の若武者。打つ太刀を受け流し。飛べば横太刀出ださせず。さつとむすび上げ。一太刀に勝負を見せにけり。
ワキ「然れども宮人。
地「然れども宮人。身命を軽んじ。長刀とりのべ。園田を目がけてかゝりければ。当の矢一筋かへさし〳〵。待てよや待てと雲の上に。大音声こそ聞えけれ。
シテ「神体大牛に乗じ給ひ。
地「神体大牛に乗じ給ひ。汝まさに。射る矢は社頭の扉を貫く。当の矢一筋。神通方便の御弓に打ち番ひ。放ち給へは。雷電まさに落ちかゝる如く。天に仰ぎ地に倒れ。逆さまに櫓より。遠近の土となる。
ワキ「此時宮人。
地「此時宮人。あふぎて神恩の高きを感じ。臥して結縁の深き川波に。うづまひめぐる。〳〵。水の煙に立ちまぎれて。神は上らせ給ひけり。

底本:国立国会図書館デジタルコレクション『謡曲評釈 第四輯』大和田建樹 著

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